タバコとは、悪女である。【ニコアン・トリガー】

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ニコアン・トリガーとは?

聞いただけで、ニコチンをアンインストールできる「言葉の引き金」

hikigane

つまり、「タバコがやめられる」ワンフレーズのことです。

 

今日はこれ。

「タバコとは、悪女である。」

 

かつてのブログ「ニコチン・アンインストール・マニュアル」で発表したところ、

「読んだだけで、怖くてタバコをやめてしまった」

という男性が続出。

多くの男性に「トラウマ」を与えた、史上最大の悪女「ニコチン」のストーリーを再録しました。

 


 

こんな夢を見た

 

夜の帳が降り、街に灯がともる頃……。

私は、仕事もそこそこに切り上げ、「いつもの店」へと足を急がせた。

 

この20年以上、一日たりとも、その店への日参を、私は欠かしたことがない。

重い風邪をひいた夜も、結婚した日も、子どもが生まれた日も……。

もしも、この世から、その店がなくなったら?

私は、自分がどうなってしまうか、自信が持てない。

生きていく自信もない。

私は、アラフォーのサラリーマンだ。

妻と、子ども二人を抱え、働き盛り、一家の大黒柱、と言われている。

しかし、この不況風は厳しく、給与アップはおろか、リストラされないだけでも精一杯だ。

今年から、月々の小遣いも減らされた。

だけど、その少ない小遣いを、何としてでもやりくりして、私は毎日、この店に通う。

それが私の、唯一の生き甲斐なのだ。

この店の名は……。

クラブ「JT」。

 

 

「いらっしゃいませ」

あの娘の声がする。

あの娘が私を迎えてくれる。

毎日、私を待ち望み、私に恋い焦がれている。

もちろん、私もそうだ。

「今夜も来てくれたのね」

薄暗い店内でも、彼女は美しい。

薄紫色のオーラをまとい、私の隣に寄り添ってくる。

彼女の香りが、ほのかににおう。

「当たり前だよ」

彼女の顔色は、紙のように白い。

彼女の首は、体は、強く抱きしめれば折れてしまうほどに、細い。

しかし私は、彼女を抱きしめた。

手を伸ばし、引き寄せ、火をつけ、吸い込んだ。

一見、クールでとっつきにくい彼女。

初めは、吸い込むだけで、噎せ返るほどだった、彼女の香り。

今はそれにもすっかり馴染み、私は彼女を、心ゆくまで吸い込む。

彼女は、すぐに燃えさかる。

私の肺は、彼女の香りで満たされる。

私の脳はしびれる。

私は、妻の顔を忘れる。

子どもを忘れる。

仕事を忘れる。

この一時だけが、私を癒してくれる。

リラックスさせてくれる。

そしてまた、明日への活力と、集中力を与えてくれる。

私は至福に包まれる。

彼女の香りに満たされる。

彼女の名は、

ニコ。

私は、彼女から、離れられない。

彼女も、私から離れられない。

私はニコを、愛情を込めて、こう呼んでいる。

……ニコちん、と。

 

 

「ちょっと待って……」

「なんだい?」

「前払いよ。」

彼女が手のひらを出す。

私はそこに、300円を。

「ワンセット、300円だね」

「いつも、ありがとう。」

彼女が300円を、胸の谷間に落とす。

私の一日の小遣いは1000円。

300円は、安いとは言えない。

だが、彼女のために遣うなら、決して高くはない。

何としてでも、この300円はやりくりする。

もしも、足りなければ……?

食事を抜く、だけのことだ。

もう一度。

私は、ニコを抱きしめる。

火をつけ、吸い込む。

私の肺が満たされる。

脳がしびれる。

理性が飛ぶ。

意識が醒める。

細胞がとろけ、再生するようだ。

私は、「ニコちん」とともに、酒を飲む。

ニコちんと酒の組み合わせは最高だ。

そして、そのまま本も読む。

彼女の香りに満たされたまま。

「延長してくれる?」

いつの間にか、ワンセットが終わりそうだ。

私は恐怖に包まれる。

ニコがいなくては、生きていけない。

ニコのためなら、病気になっても、たとえ死んでも構わない。

「もちろんさ」

「ありがとう。愛してる」

「僕もだよ」

300円を彼女に渡す。

合わせて、今夜で600円。

惜しくはない。

私は、彼女のために生きている。

ニコが好きだ。

私は彼女を吸い込む。

ニコの香りに満たされる。

脳がしびれる。

そのまま、本を読み続ける。

映画を見る。

音楽を聴く。

やがて、閉店の時間になる。

「また、明日も来てくれる?」

ニコちんとの別れの時間。

「当たり前だよ」

「愛してる。」

「私もだ。」

「離れないで」

「もちろんだよ。」

「永遠に?」

「そうだよ。」

私はもう一度、彼女を抱き寄せ、火をつける。

ニコの香りで満たされる——–……。

 

 

 

そんな毎日。

ある日のこと。

私の耳に、ニコちんの、嫌な噂が入った。

彼女の得意客は、何人も不幸になっている。

肺ガンになって死ぬ客。

家が火事になる客。

子どもが誤飲して、中毒になる客。

そんな客が、多いという。

ウソだ。

私の「愛しのニコちん」に限って、そんなことがあるはずない。

しかし、噂は喧しい。

私の耳に入ってくる。

信じられない。

信じたくない。

あの、甘くかぐわしく、美しいニコちんに限って、そんなことがあるはずない……。

私は噂を否定するため、いつもとは違う時間に、クラブ「JT」に赴いた。

 

 

クラブ「JT」その裏口で。

私は一人、佇んでいた。

やがて。

裏口のドアが開く。

人影が二つ、出てくる。

抱き合っている。

私は、目を疑った。

男に抱きつき、しな垂れかかり、身を任せているのは、私の愛する「ニコちん」ではないか。

その相手は?

なんだか、冴えないオヤジだ。

アラフォーとはいえ、私の方が、ずっと若い。

誰だ……。

あいつは……。

あの野郎は……!

なぜ、私のニコちんを……!!

私は、電柱の影で震えながら、二人を睨みつけていた。

やがて、二人は身を離す。

ニコが、男に何かを渡している。

男がいなくなる。

私は、ニコのもとに駆けつける。

「……おい!」

ニコが振り向く。

「……あら。今日は早いのね」

ニコが微笑む。

美しい。

涙が出るほど魅力的だ。

「……今の男は誰だ。」

私は、食いしばった歯の間から、声を絞り出す。

「見てたの?」

ニコの目が鋭くなる。

それでも美しい。

彼女からは離れられない。

「誰だ」

私はニコに近づく。

ニコは、身をかわす。

「知らないほうがいいわ」

「ふざけるな!」

妖艶な笑みを、ニコは浮かべる。

「……あなたが、知る必要ないことよ」

「いいから教えろ!」

私の体は震えている。

恐ろしい予感がする。

その真実を、おそらく私は、知ってはいけない。

それでも、声は止まらない。

「君は、僕を愛していたんじゃないのか。

今の男は、じゃあ誰だ!」

ニコの目が鋭くなる。

「そう。

後悔しないなら、

教えてあげる」

ニコちん。

やっぱり、彼女は魅力的だ。

愛している。

離れられない。

死んでも構わない。

雨が激しく降り出した。

….*…..*…..*…..*…..*…..*…..*…..*…..*…. *…..*….

空が暗くなる。

稲妻が光る。

「ニコ」の顔を、浮かび上がらせる。

美しいその顔が一瞬、ドクロのように見える。

雨が激しく降りしきる。

私は、頭からずぶ濡れになる。

半分開いた扉の陰で、ニコは私を冷たく見下ろしている。

「……後悔しないなら、教えてあげるわ」

雷鳴。

「さっきの男は、誰なんだ」

私は声を絞り出した。

「……この、クラブ『JT』のオーナーよ」

「オーナー? この店は、民営じゃないのか」

「それは、見せかけ。」

ニコは言った。

「クラブ『JT』には、組織のバックがついてるのよ」

「バック?」

私はオウム返しだ。

「……財務組」

その名を聞いて、私は耳を疑った。

「ざ……財務組?」

財務組といえば、泣く子も黙るという、この国の最中枢組織だ。

ときの総理大臣でさえ、その意向には逆らえないという。

それにしても、なぜ、クラブ「JT」まで、財務組の手が伸びているのだ?

この界隈、この業界を取り仕切っている組織といえば、私は、「厚労会」だとばかり、思っていた。

それが、世界の常識だからだ。

「JTは、財務組のヒモつきなのよ。」

「じゃあ、このクラブも、君も……」

「そう」

ニコちんは、冷たく微笑んだ。

「財務組のために、働いているのよ」

 

 

「じゃあ、さっきの男は……」

「もちろん」

雨がさらに激しくなる。

「財務組の、会長よ」

「何を渡していた?」

「お金よ」

稲妻が光る。

「このお店の売り上げを、上納していたに決まってるじゃない」

「上納……」

「そう。ヒモつきって、そういうことでしょう」

ニコは説明してくれる。

私の心を、冷たく凍らせる説明を。

「あなたが私に払ってくれる、このクラブの料金。

ワンセット、300円よね。

そのうちの、190円は、財務組の取り分なのよ」

「そんなに……?

半分以上、いや、3分の2じゃないか!」

「そうよ」

「私は、君のために、払っていたんだ」

「世の中、そういうものなのよ」

ニコは、子ども相手のように笑う。

「毎日毎日、2セット600円を払ってくれて、どうもありがとう」

「……」

「そのうち3分の2だから、毎日、あなたは約400円を、

財務組のために払ってくれていたの」

「……君は、僕を……?」

「なあに?」

「愛していたんじゃないのか?」

雨が降りつける。

「……まさか」

私は、ぬかるみの中に膝をついた。

「僕を、何だと思っていたんだ?」

「もちろん、お・客・さ・ま」

ニコは目を細めた。

「いや……正確に言えば。

カ・ネ・づ・る・ね。」

私は震えた。

怒りに。

絶望に。

「騙していたんだな!」

「騙される方が悪いんでしょ」

ニコの顔から笑みが消える。

邪悪な陰がにじみ出す。

それでも美しい。

「だったら、別れましょ」

ニコの言葉が、私の心をえぐり抜いた。

私は泥に手をついた。

「いいわよ。もう来なくて」

「そんな……」

「代わりはいくらでもいるんだから」

「ニコちん……」

「気安いんだよ」

ニコの顔が鬼になった。

「誰が、アンタなんか愛するもんかよ。

カネのために、吸われてやってたんだ。

そうでなきゃ、誰がアンタみてえな、

ダサくて、ショボくて、くせえオヤジと」

「臭い……?」

私は泣いていた。

雨に打たれ、泥にまみれて。

「アンタ、ヤニ臭いんだよ。

ただでさえ、ダサくてエロくてみっともねえオヤジが、

しかもヤニ臭かったら、女がよりつくわけねえだろ?」

「君は……」

「カネのため。何度言えばわかるんだよ」

「ニコ……」

私は泣きじゃくった。

「じゃあね。サヨナラ」

「ニコォ……!」

「あなた、私と、別れられるんでしょ?」

「わ…わ……別れられなーーーい!」

「私がいなくても、生きていけるんでしょ?」

「生ぎで……いげなーーーーーい!」

私は号泣した。

「そうよね」

ニコが、微笑んでくれた。

「そういうふうに、しつけたんだから」

私は、泥の中に、顔を突っ込み、泣いた。

「あなた、私のこと、好き?」

「好ぎだぁーーー!」

「です、でしょ」

「……好ぎでずぅ~~~!!」

「愛してる?」

「愛しでまず~~~!」

「離れられる?」

「離れられなーーーーい!」

「そうよね。

あなたは、私の。」

雷鳴が轟いた。

「……奴隷なんだからね」

 

 

そうだ。

私は、奴隷だ。

ニコの奴隷だ。

こんなにされても、離れられない。

私は、ニコがいなくては、生きていけない。

明日、たった一日すら、暮らすことができない。

仕事も手につかない。

私はこれからも、一生、死ぬまで。

ニコちんの、奴隷として生きていこう。

たとえ、どれだけカネがかかっても。

そのカネの大部分が、彼女のバックの「財務組」の、資金源になったとしても。

私に、ニコと別れることなど、できるわけがないのだから。

「じゃあ、あなた」

上から、ニコの声がした。

私は、泥まみれの顔を上げる。

「また今夜、いつものように、来てね」

私は、泥と涙で汚れた顔で、うなずく。

必死にうなずく。

「愛してるから」

「……愛してる」

私は声を絞り出す。

彼女が、扉の中に消える。

音を立てて、扉が閉まる。

私は、ひざまずいたまま、泣きじゃくった。

……扉が開く音がした。

私は顔を上げた。

ニコがいる。

私を見下ろして、こう言った。

「一つ、言い忘れていたわ」

ニッコリと笑う。

「うちのお店、10月から値上げするの。

ワンセット、300円が400円になるけど、来てくれるわよね」

再び、冷たい笑みに戻り、

「あなたは、私の奴隷なんだから」

扉が閉まった。

私は、絶叫した。

 

 

結局、それっきり、私は「クラブ・JT」には、行かなくなった。

ニコにも、それっきり、会っていない。

もちろん、初めは、行くつもりでいた。

あんな目に遭っても、私は、ニコちんの奴隷なのだから。

行かずにはいられない……そう覚悟していた。

しかし、あの雨の日、帰った私の家の、ポストに。

1冊の本が届いていた。

注文した覚えはない。

その本のタイトルには、

「ニコチン・アンインストール・マニュアル」

とあった。

その日、私は、その本を読んだ。

世界が一変した。

読み終わったとき、私の頭の中から、ニコの面影は消えていた。

それから、100日ほどが経った、ある日。

街を歩いていた私は、ふと、クラブ・JTの看板を、見つけた。

もちろん、もう二度と、あの店に入る理由はない。

だが。

ニコは。

あの、美しく、魅力的だったニコは、どうしているだろうか……。

ふっと、そんな気がして。

電柱の陰から、しばし、店の扉を見つめていた。

やがて、扉が開き。

人影が出てきた。

一人の客と、もう一人。

あの、折れそうに細いスタイルは、ニコだ。

客は、ニコを抱き寄せ、火をつけ、吸っている。

ニコの、表情は見えない。

やがて、客が帰り、彼女がこちらに顔を向けた。

私は、戦慄した。

やはり、あの店には、何か特別な「力」があったようだ。

私はずっと、「幻想」を、見せられていたのだ。

あれほど、美しく、悩ましく見えていた、ニコ。

彼女の顔は真っ白く、眼窩にはぽっかりと、黒い穴が開いていた。

その顔は、ドクロそのものだった。

 【 完 】

※この物語はフィクションであり、実在の団体名などとは
ちょっとしか関係ありません。

 


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